2007年夏 つり橋の里キャンプ場にて (4)圧迫 [キャンプ]
担ぎ上げた堤の上には、すぐに誰かがバスタオルを敷いて簡便な寝床を作ってくれ、まずは男性をそこに寝かせました。(タオルを持ってきてくれる人は多く、すぐに必要十分な数に。ありがたいことです。)
しかし・・・・・・・・・・・・
引き上げたはいいが、ここから先がさてどうしたものかわからない。寝かされた男性の周囲の人々は互いに顔と顔を見合わせ、助けを求めています。声なき声が聞こえます。
「とりあえず引き上げたけど・・・・これからどうしたらええの?」
ここでボクは腹を括りました。
「俺がやるしかない」
男性は白髪で年齢は60歳過ぎ(と思われました)。両目はかっと見開かれ、唇は真っ青、体はどす黒い紫色に変色しており、ピクリとも動かない。呼吸をしているようにも見えない。当然ながら叩いて声をかけても何の反応もない。完全な心肺停止状態。
JCS(←クリックしてね):Ⅲ-300。このまま何の処置もせずに放置すれば命を落とすことは間違いありません。というか、すでに今が水死体状態。
先日習った手順どおり、まずは救急車の手配を依頼。すでに中年女性が携帯電話で連絡してくれていましたが、ここは秘境とも呼ばれる山また山に囲まれた地域、到着まで30分はかかるとのことでした。
ここでボクはもう一度腹を括りなおしました。
最悪の場合、救急車が来るまでの30分、胸骨圧迫(いわゆる心臓マッサージ)をやり続けなあかんと。
(これが胸骨圧迫)
念のため呼吸の有無を再度確認した上で肩の下に丸めたタオルを入れ、頭を後ろに反らせて気道を確保、そして胸骨圧迫を開始しました。経験のある人ならご理解いただけると思いますが、この胸骨圧迫は著しく体力を消耗します。1分間に100回のペースで30回の胸骨圧迫、2度の人工呼吸、これを繰り返します。ひたすら繰り返します。ゴールは見えません。傷病者が息を吹き返すまで延々と繰り返します。息を吹き返すケースは稀と言ってもいいほどの割合。それでも胸を押します。決して諦めずに。
そのうち、周りの会話からこの男性は溺れかけたお孫さんを助けようとして自分が溺れたということがわかってきました。小学校低学年と思しきその子供が、泣きながらそばに立っています。
救急の世界では、心臓停止が3分続くと酸欠で脳細胞が重大な損傷を受け、死亡に至る確率は50%と言われています。橋の上の声を聞いてから少なく見積もってももう4分近くは経っているはず・・・・。
ボクは重ねた両手で胸を押しながら、必死に声をかけました。
「おっちゃん、まだ早いで! お孫さんと遊ばなあかんやろ!」
「戻っといでーや、おっちゃん! まだまだこれからやんけ!」
・・・・・
あかん、呼吸が戻らん・・・・。
(つづく)
ヒロさん 頑張れ~!
by 横G (2010-08-30 22:46)
甦れ!!蘇生するんだ!!
by ジャンキー (2010-08-31 00:22)
最後の言葉読んでて、涙でてきちゃいました(泣)
つづくですか?今夜眠れませんよ~~~~
by のん (2010-08-31 00:51)
頑張りました。
この稿はあと3回で終わる予定です。
さっき、(5)をアップしました。
by ヒロ (2010-08-31 22:16)